広瀬正『エロス』(集英社文庫)

ある大女性歌手の歌手生活三十七年を記念するリサイタルの<現在>と、の時点から三十七年前の昭和八年、東北から18歳の少女がら上京してくる<過去>。その過去に、ありえたかもしれない<もう一つの過去>…。(文庫背表紙あらすじ)

「もし、あの時こうだったら」のいわゆるIfもの。現在と過去と有り得たかもしれない過去がバランスよく語られる。語り口がかなり上手いです。また昭和十年代の描写が微細に語られ当時の東京という街の姿が浮かび上がってくる。ディテールの細かさがうまく物語と絡みラストで昇華されていきます。うーん、上手いなあと唸ってしまいました。日本SF黎明期の作品はレベルが高いとSFセミナーでどなたかがおっしゃっていましたが、実に本当かも。

エロス (1982年) (集英社文庫)

エロス (1982年) (集英社文庫)