ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』(ハヤカワHM文庫)

オスマントルコ帝国近衛新軍に衝撃が走った。四人の士官が突然姿を消し、次々に惨殺死体で発見されたのだ。スルタン隣席の閲兵式を間近に控え、早期解決をもくろむ司令官は、聡明で鳴る宦官ヤシムに調査を託す。死体が指し示すのは、近代化のために抹殺されたかつての最強軍団イェニチェリの残党だった。背後には不穏な動きが見え隠れする……見事にアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を射止めた、歴史ミステリの傑作(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/434701.html)

19世紀初頭のイスタンブールという街を舞台した歴史ミステリ。主人公は宦官ヤシム。相談役という役割とスルタンの大奥にも自由に出入りできる立場で、同時期に起きた仕官の謎の死体の調査、そしてスルタンの大奥での女官の殺人の2つの事件を同時に追いかけていきます。オスマン帝国の威光が翳りをみせ近代化の波が押し寄せた時代。その歴史と近代の狭間で生きる人々が描かれていきます。歴史が染み込んだ異国情緒溢れるインタンブールという街、そしてそこに住む様々な人々を見事に活写し、その情景描写がとても魅力的。独特な風習を描いていくうえで、宦官というキャラクターを持ってきたのが上手いです。
歴史ものとしてはかなり面白い小説です。ただ、いわゆるミステリとしてのストーリー展開は少々雑というか散漫。せっかくいい題材なのに上手くまとめきれていない。文章を細かく区切り、あちこちに視点を散らばし、最終的に事件を収束していく手法なんですが、残念ながら上手く機能せず焦点がぼやけてしまっている。章ごとは面白いのに、ミステリとして全体の印象が薄い感じ。ちょっともったいないですね。題材やキャラクター造詣が面白いのでシリーズが出たらまた読むと思います。

イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)