NODA・MAP『キル』

シアターコクーンNODA・MAP『キル』を観に行きました。NODA・MAP作品は『贋作 罪と罰』『ロープ』に続いて3作品目です。『キル』はこの3作品のなかでは一番古い作品。まだ夢の遊眠社の残り香がある作品ということですが、なるほど。まずは言葉ありきなんですね。言葉からのイマジネーションや言葉遊びを身体を使って表現し、詰め込むだけ詰めて、解き放つ。その雑然としたエネルギーと物語。そして少年性とイノセンス。物語の構成は3重の入れ子。根底にあるテーマは古くからある親子や男女の愛憎、そして人間の業としての野心、憎しみの方向性、といったもの。わかりやすいし面白いのだけどテーマの軸が固定されてなくて少しとっ散らかっている印象も受けました。それとどことなく年代的な古さも。いえ、今でも通じるものではあるのですが、それでもなんとなく「古さ」を感じます。脚本は初演当時そのままでの提示なのでしょうか。少し手直ししてもいいかなと思わなくもない。舞台(美術)の作りはかなり面白いですし見事ですね。また演出能力の素晴らしさには惚れ惚れします。


役者では個人的に印象に残ったのは結髪の勝村政信さん。動きも台詞もしっかりしてるだけじゃなく言葉の咀嚼が深い。時々素になっちゃうのがもったいない。さしずめシラノ・ド・ベジュラック。主人公のようでした。そしてバンリの野田さん、身体能力の高さと子供のイノセンスさの表現にビックリ。高田聖子はいつもの聖子さんという感じではあるのですがやはり言葉の咀嚼の部分で消化のしかたが上手い。


妻夫木聡さんは初舞台とは思えないほどよく動きしっかり台詞をこなしていました。一生懸命頑張っている、という言葉はこういう時は褒め言葉だけではないですが、でもその言葉がしっくりくる頑張り。まだ言葉を立ち上げるというところまでには至ってないのですが素直な芝居がテムジンというキャラクターに合っていました。シルクの広末涼子さんは前半がちょっと人を惹きつけるオーラが足りない感じですし、どこか言葉が前に出てこない。しかし後半は母の部分、本当に意味での愛を知った「女性」として立った時は説得力がありました。でももう少し個性があってもいいかなあ。


残念だと思ったのがイマダ・蒼い狼の小林勝也さん。もっと骨太さや深みが欲しいなあ。声も前にあまり出てこないし。あとトワの高橋惠子さんもアンサンブルに沈んでしまう。母としての大きさとか慈愛を強烈に出したほうが面白いんじゃないかなあと。


そういえば野田さんの台詞回しって独特。妙に耳に残る。『キル』でも「おとーさまー」とか「かえろー」とか。感情がなさそうなところの奥に感情があるって感じ。うーむ自分の言いたいことがわからないぞ。野田メソッドのひとつなんだろうな。これを消化して言えてる人は少なかったけど。