ピーター・トレメイン『幼き子らよ、我がもとへ』上下(創元推理文庫)

七世紀アイルランドを舞台にした時代ミステリ。『蜘蛛の巣』に続く邦訳第二弾。二弾と言ってもシリーズで言えば『蜘蛛の巣』(5作目)より『幼き子らよ、我がもとへ』(3作目)のほうが先に書かれています。

疫病が国土に蔓延するなか、王の後継者である兄に呼ばれ故郷に戻ったフィデルマは、驚くべき事件を耳にする。モアン王国内の修道院で、隣国の尊者ダカーンが殺されたというのだ。このままでは二国間の戦争に発展しかねない。フィデルマは、兄の要請で調査に向かう。途中、村が襲撃される現場に行きあい、生き残った者たちを連れて、殺人現場の修道院に向かうのだが……。美貌の修道女フィデルマが、もつれた事件の謎を解き明かす! (東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3755)

七世紀アイルランドを舞台に当時の文化、政治、宗教が描かれていますが非常に読みやすいです。本格ミステリとしてもかなりきちんと書かれています。殺人事件に纏わる複雑な背景を丹念に拾っていき謎を解いていく道筋が丁寧に描かれています。といっても捻りは無いのでミステリ読みなら先読み可能かな。主人公の真相解明が遅すぎないか?とちょっとイライラする部分もあるけど、その代わり裁判のシーンはスリリング。かなり面白いです。


しかし、前作でも思ったんだけど主人公のフィデルマのキャラがどうしても好きになれない…。たぶんシリーズを追うごとに人間的に成長していくんでしょうけど。でも今の所どうにも苦手。弱者への共感がありそうで実は無いように見える。今回の作品もフィデルマが裁判に勝つのに必要なキャラだけ救ってるのよ。虐殺された幼き子たち、あれほっとけるのがもういや。つーか、作者が悪いんですがっ。主人公を好きになれないけど、でも面白く読めてしまう。それだけ物語としてうまく書けているってことだと思います。

幼き子らよ、我がもとへ〈上〉 (創元推理文庫)

幼き子らよ、我がもとへ〈上〉 (創元推理文庫)

幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)

幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)