トルーマン・カポーティ『カメレオンのための音楽』(ハヤカワepi文庫)

面白かった!カポーティが描く人々はどこか哀しい。そして「人」の得体の知れなさをそのままストレート描写する。情景描写がとても密で、どの場面も活き活きと立ち上がる。本当に見事だと思う。野坂昭如氏の翻訳も上手いのだろうが原文ではもっと研ぎ澄まされているのではないかと思う。 この作品はカポーティ後期の作品群。三章に分かれていて、それがそのままカポーティの初期〜後期作品への流れと一致している。


一章『カメレオンのための音楽』
表題作を含む6編の短編集。初期のカポーティ作品をイメージさせる作品が多い。現実と幻想の境界線が曖昧な不可思議な作品たち。
二章『手彫りの柩』
中篇『手彫りの柩』が一本。『冷血』と対を成す作品。現実にあった事件をフィクションとして再構成している。ルポルタージュ形式であるが、事件の語り手の刑事がカポーティが作り上げた虚構の人物であるために、『冷血』よりこちらのほうがより物語的である。猟奇的な殺人事件になすすべもなく人生を狂わされてしまう男の物語でもある。実際あった事件とは思えないほどの狂気。殺人事件の救いのなさが強調されている。
三章『会話によるポートレート
カポーティとその周囲の人々の交友記録。まさしくポートレート集。最後の作品『叶えられた祈り』の形式を踏襲しているがこちらは気負いがない感じ。カポーティは人を深いところまでよく見ているなと思う。痛みを敏感に拾う。それを文学として表現せずにはいられないカポーティの業も痛々しい。カポーティ最高のスケッチといわれている、マリリン・モンローを語った作品『うつくしい子供』がやはり印象的であった。

カメレオンのための音楽 (ハヤカワepi文庫)

カメレオンのための音楽 (ハヤカワepi文庫)