ピーター・トレメイン『蜘蛛の巣』上下(創元推理文庫)

七世紀アイルランドを舞台にした時代ミステリ。修道女フィデルマ・シリーズと銘打ってあるようにシリーズもの(原書17巻)で『蜘蛛の巣』は邦訳第一弾ですがシリーズ第五作目作品。どうせなら第一作から訳して欲しかった。個人的に七世紀アイルランドの生活が描かれているというだけでかなり魅力的な作品。神話以降でまだキリスト教に蹂躙されていない時代のアイルランドが活き活きと描かれています。作者はケルト学者だそうで歴史的背景などの知識がしっかりしたうえで世界を構築している為か情景がとてもリアルに立ち上がっています。


ミステリとしてもきちんとしているし物語としてもかなり面白いです。歴史ミステリとして秀逸だと思いますしオススメできる本。ただし、物語に共感するかどうかは別ですが…。私個人としてはラスト数ページにいくまではかなり大好きなタイプのミステリでした。いえ、たぶんこれからもシリーズが訳されれば手に取っていくであろうと思う本です。ですが、ですが『蜘蛛の巣』のエンディングはどうしても納得いかないのです。ミステリとしてのオチは綺麗についています。たぶんほとんどの人が気にならない部分かもしれません。でも私はクローンが救われないことで主人公のフィデルマが好きになれなくなりました。いえ、そうではありませんね、フィデルマがではなく作者が、ですね…。


蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) 蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)

緑豊かなアラグリンの谷を支配する、氏族の族長エベルが殺された。現場には血まみれの刃物を握りしめた若者。犯人は彼に間違いないはずだった。だが、都から派遣されてきた裁判官フィデルマは、納得出来ないものを感じていた。七世紀のアイルランドを舞台に、マンスター王の妹で、裁判官・弁護士でもある美貌の修道女フィデルマが、事件の糸を解きほぐす。ケルト・ミステリ第一弾。(「BOOK」データベースより