国立大劇場『元禄忠臣蔵 第三部』

国立大劇場『元禄忠臣蔵』第三部を観劇しました。第三部は討ち入り直後から切腹に至るまでの赤穂浪士の心情を淡々と見せていきます。大きな事をやり遂げた充足感と虚脱感とを、また死へ向かう浪士の覚悟と揺れを同時に描いてみせ、人間群像としてのドラマがありました。最終章として非常にまとまった良い芝居を観たという感じです。この第三部は役者のアンサンブルがうまくかみ合い、終始舞台上の空気が締まっていたように思います。あだ討ちという熱が冷めた後の静かな冴え冴えとした空気感とうねり。


普段は前へ前へと芝居していく幸四郎さんが抑えた芝居で重量感をみせ、またほんの少しの表情動きで大石の心持をみせていく。揺れがありながら、初一念を通した芯の強さがある大石でした。また、大石内蔵助という人物がリーダーとして傑出たりえた部分であろう目配りのうまさがよくみえ、とても納得のいく人物像としてありました。それにしても今月の幸四郎さんは白鸚さんをかなり彷彿させました。今まであまり似てるとは思ったことないのですが、姿といい台詞廻しといい、私が拝見した舞台上の白鸚さんが一気によみがえってきました。たぶん、幸四郎さんがお父様のことをかなり意識されていたのではないでしょうか。


幸四郎さんの大石を核として、 周囲の役者が本当によく揃っていたなと思います。なんというか、大石が「人の支えあってこそ」と思うに至る心情とこの舞台とがリンクしていたような感じ。詳細感想別途書きます。ほんとそれぞれの役者さんが持ち味を生かしていい出来だったと思う。


10月から始まった『元禄忠臣蔵』、三ヶ月の通しという国立の試みは成功でしたね。あまり華やかさのない演目ではありますが通しで見る意義は十分ありました。また吉右衛門さん、藤十郎さん、幸四郎さんの大石のリレーも非常にうまく嵌まっていたなと思います。三ヶ月通ったご褒美の手ぬぐいをしっかりいただきました。