カルロス・ルイス・サフォン『風の影』上下(集英社文庫)

父親に「忘れられた本の墓場」に連れていかれ、自分のためだけの本をたった1冊探すダニエル。見つけたその1冊は『風の影』。そして本の作者フリアン・カラックスは謎に満ちていた。そのフリアンの謎を追うダニエルは奇妙にもその作者の運命と似通った運命へと導かれていく。


ミステリ風味の少年の成長譚といったところか。忘れられた本の墓場のエピソードは本好きのツボをくすぐり、つかみはOK。本の謎を追い、そこには不気味な人物たちが絡み、という部分がかなり面白い。特に上巻は幻想に転びそうなギリギリの線が魅力。下巻に入り謎解きがかなり現実的になる部分で、少々面白みが減ったかな。その代わりミステリとしてのオチをしっかり求める向きには納得する方向だと思う。しっかりと謎解きはされています。ただ主人があまり魅力的じゃないのがなんとも…そのせいか恋愛部分がさして面白くない。私の好みじゃないってだけかもしれないけど。周囲の登場人物はそれぞれに個性的で面白い。あれこれと詰め込んでいるものの、それほど上っ面にならずに上手くエンターテイメントにまとめているのでリーダビリティは高いです。