満身創痍の弁慶

秋の巡業『松竹大歌舞伎』を観に三鷹公会堂まで行ってきました。出し物は『歌舞伎噺』『吉原雀』『勧進帳』の三本立て。『歌舞伎噺』では錦弥さんが夏の頃よりだいぶしゃべりがこなれていました。相変わらず素敵。錦次くんが供奴を頑張ってたヨ。橋吾さん橋幸さんが息の合ったトンボをきっていました。『吉原雀』は信二郎さんと高麗蔵さんがスッキリと丁寧な踊りを見せてくださいました。信二郎さんは男前でキリッとした踊り。高麗蔵さんの鳥女は美人さん。手捌きがしなやかで身の反りもとてもきれい。


勧進帳』、幸四郎さん弁慶が満身創痍の弁慶でした。ちょっとお疲れぎみなんでしょう、いつもの朗々としたハリのある声が出ていません。ただ、非常に気持ちがこもっており弁慶の必死さ主君への想いはよくみえるものでした。でも前半、少々迫力不足だったかなあ。延世の舞〜飛び六方までの場は相変わらずお見事。ここはほんとに天下一品だと思う。幸四郎さん弁慶はとても表情豊かなのですが、2年前から較べると少しづつその表情を押さえぎみにしてきてる感じがしました。それがかえって最後の神仏への感謝の念がよく伝わってくるものにしていたような気がします。にしても、いつもより台詞の抑揚を廻せなかったせいか、某所の『勧進帳』のせいか、台詞がいつもより非常に聞き易いと感じた私でした(笑)


高麗蔵さん義経は品格という部分と柔らか味がまだ足りないのですが、武将としての鋭さをみせ、辛抱役の義経という部分から一歩違うかなりユニークな義経像を作ってきていました。面白かった。


そして今回の私の目当ては信二郎さん富樫です。富樫の衣装は役者をいつも以上に男前に見せるのですが信二郎さんもとても衣装が似合い素敵でした。想像以上に骨太さと心に秘めた熱さを見せていただき、かなり良い富樫だったと思います。心配だった声も安定していて、緩急もきちんと乗って心地良いリズム。信二郎さんはこのところかなり安定感が出てきたなあと思います。もう少し突っ込んで欲しい部分や、体の持って行き方に物足りない部分もあるにはあるのですが、気持ちの乗り方がとてもよかったので、再度観てみたい富樫でした。


四天王のコンビネーションは相変わらずお見事。錦吾さん、亀三郎さん、亀寿さん、宗之助さん。歌舞伎座での四天王は誰になるのかな?亀兄弟を使ってくれないかなあ。