母の想い、妻への想い

歌舞伎座『芸術祭十月大歌舞伎』昼の部を観ました。昼の部は期待以上に良い舞台を見せていただきました。今月は昼の部のほうが好みです。後半、もう一度見たいなああ。


芦屋道満大内鑑』は葛の葉の魁春さんが母としての想いが切々としてとても良かったです。また魁春さん独特の女形の体の作りが狐としての異形さにピッタリ。まだこなれていないな、と思う部分はありましたが持ち役として演じていっていただきたいです。幻想的な引っ込みの演出も素敵でした。


『寿曽我対面』、絵面が楽しい荒事。工藤祐経団十郎さん、5月の時よりお元気そうでなにより。声の張りは全盛期に比べると落ちてるかな?とは思いますが大きな存在感は健在。重さが出てきたような感じもしました。曽我十郎の菊之助さんが目を見張るほどの上出来ぶり。形の美しさに感嘆。柔らかさとキッパリした部分とがうまく同居し、台詞回しに艶もありました。体の使い方が格段に上手くなったように思います。曽我五郎の海老蔵さん、姿形の美しさは素晴らしいし華も存在感も見事。ただし台詞が無ければ…。リズム感があんまり無いだけでなく、とっても良い声なのに台詞が篭って所々何言ってるのか…と思えば現代語の台詞?な軽い言い回し。うなってるようにしか聞こえないとは後ろにいた歌舞伎初観劇らしきおじ様連中。歌舞伎役者としての資質は同世代のなかじゃ突出してるだけに、良さも目立つが粗も目立つ。


『熊谷陣屋』、 見ごたえありました。なんと言っても熊谷直実幸四郎さん、先月の松王丸に続き、渾身の出来ではないでしょうか。やはり幸四郎さんは時代物のほうが似合います。特に熊谷直実に関しては私は幸四郎さんのが一番好みです。子を想う父としての顔、だけでなく坂東武者としての格と無骨さがありまたその不器用な生き様のなか、妻に対する想いをも明確にある熊谷直実です。幸四郎さんの真骨頂は僧侶姿になってから。寂寥感漂う花道での引っ込みは見事としかいいようがありません。戦場のドラを聞いて一瞬、武将の顔に戻る。まだ武将の心を捨てきれないことを表現することで男の哀れさが一層際立つ。この熊谷はフィルムでみた初代吉右衛門さんの『熊谷陣屋』に非常に似ていました。私はこのフィルムを観た時、初代の演技の資質に近いのは幸四郎さんのほうだと思いました。そして今回、幸四郎さんと初代では身体性はだいぶ違うとは思うのですが、やはりそうなんじゃないかなと思った次第。二代目吉右衛門さんのほうは実父、白鸚さんの資質によく似ている。


あとは源義経團十郎さんの情味と存在感、弥陀六の段四郎さんの説得力、藤の方の魁春さんの品格、非常に良かったです。相模の芝翫さんは母として妻としての情はよく伝わってくるのだけどまだ少々ハマりきっていない感じ。


『お祭り』、鳶頭松吉の仁左衛門さん。ただひたすらカッコイイ。爽やか、美しい。えーっとここでこれを言っちゃ、と思うのですが仁左さんと染ちゃんやっぱ似てるかも。立ち姿が似てるのよね。