三月大歌舞伎 夜の部

前日に引き続き、痛み止めを飲みつつの観劇。夜の部は滅多にかからず、今まで見たことがなかった『近頃河原の達引』と『水天宮利生深川』目当て。夜の部のこの2演目が面白かったとの松嶋屋贔屓さんからのお話もあり期待。


『近頃河原の達引』はストーリー自体はさほど面白いものではないと思うのだけど、役者がそれぞれニンにぴったり合っていい味わいの芝居になっていた。我當さんがかなり良かったですね。朴訥として、人柄が滲み出るような肉親への情のあり方が素晴らしい。秀太郎さんはひさびさに娘役を拝見しましたが独特の色気があってピッタリ。藤十郎はさんは出るだけで濃密な空間を作りやはりさすが。


『二人椀久』は富十郎さんが若々しく当たり役を踊りさすが。菊之助さんはとにかく綺麗。かなり体の作り方が上手くなってきていました。でも雀右衛門さんの姿を舞台に探してしまう私がいました…。あの濃厚な情を感じさせた『二人椀久』はもう観られないのでしょうか…。


『水天宮利生深川』はいわゆるザンギリもの。明治という時代にうまくのっていけない元武士の家族の悲劇。子役の健気さも手伝い、暗い話ではあるが無理矢理なハッピーエンドが良しとなる。狂いの場での水天宮にまつわるさりげない趣向(「船弁慶」など)は黙阿弥らしい。時代に取り残された男を幸四郎さんは現在にも通じる悲劇としてとらえ、リアルな人物造詣をしてみせる。だが幸四郎さんはあまり暗く重い物語に見せたくなかったのか心中を決意する場はとてもよかったのに、結局子供を殺せず狂気に陥る場を軽く大仰にみせてなんとなく中途半端。いつものようにスコンと深刻に狂気に陥ったほうが幸四郎さんには合う。狂気に笑いに含ませるのは難しい。それにしても、この話は今の世の中に置いても違和感のない物語ではある。黙阿弥の時代性は「今」でも違和感を感じさせないものがある。しかしながら明治という時代をみせる芝居としては通しでやったほうが面白そうだなとも思った。なぜこの場だけ残ったのかなあ。