マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』(創元SF文庫)

マイケル・マーシャル・スミスの描く悪夢が好きだ。ぐらぐらしながら空を綱渡りしているかのような居心地の悪さ。そして足元がぞわぞわしながら目が醒める。そういう夢。整合性のないまま記憶されているその夢が呼び起こされるような感覚。ふわふわと浮遊感を伴なった夢と現実の境。スミスの夢は死を死として描かず、愛しく想うものが確固たるものとして傍にある。夢のなかの現実、現実のなかの夢。悪夢なのにどこかみょうに前向き。空気が生暖かい。気持ち悪いけど寒くない。