瀬名秀明『ハル』(文春文庫)

私なんぞに書かれたくはないだろうが瀬名さんて、物語を書くのが(小説技法というほうがいいのかな)ヘタだと思う。ではどこに魅力があるのかというと題材の捉え方だろうと思う。そしてこの『ハル』という物語の魅力もそこにある。この小説は近未来のロボットを描いたSF連作集である。短編の積み重ねが人とロボットの共生が始った頃の年代記にもなっている。現在の技術レベルを元に近い将来作られるであろうロボットの形を提示し、どう人間と共に歩むのかを描いていく。そしてそこに『鉄腕アトム』というある年代には夢であり友達であったロボットの存在の功罪を絡めていく。ロボットに心を見出せるのか、正義のありようとは、生命とは。


アトムが題材になっているせいもあるだろうが、未来の話なのに郷愁が漂う。またロボットと人間の共生の話は現在の現実世界での人間の営み、感覚をきちんと描き出しありうる話として説得力をもつ。ただ、「こうなるであろう」予測まではあるのだが、その先のロボットと人の共生の行き先、遠い未来へと続く道はほとんど提示していない。「魂」「霊」「想い」といった部分に還元してしまうのはどうなんだろう?そこがとても残念だった。ラストはスピルバーグ監督『A.I』と一緒や、とも思った。そんな未来ってどうよ?