スティーブン・キング『回想のビュイック8』上下(新潮文庫)

暗黒の塔』シリーズの番外編という位置付けでいいのかな?雰囲気的に『アトランティスのこころ』とかなり似通っており、青春物とダークホラーをミックスさせたキング得意の語り口。残念ながら最盛期の筆力から較べるとちょっと落ちてるなあという部分はありますが相変わらずのストーリーテイリングのうまさは健在。


警察官だった父を亡くした少年のために、警察署の人々は彼の父の過去を語り始める。なぜそこに古い車が置かれているのか。そのキー不思議な車「ビュイック8」まつわる事件とは。ただの田舎町の分署の生活には実は闇が潜み、どこがずれたゆがんだ空間をもたらしていることが少しづつ明らかになっていく。


ペンシルヴェニア州警察の分署の人々や亡くした少年の描写、また彼らにまつわる生活描写は本当に見事で、映像のように活き活きと立ち上ってくる。相変わらず生活のなかに潜む異世界との邂逅描写はなかなかにおぞましくっていいです。ある意味SFでもありますね。アメリカという土地に根ざし、そこで生きていくものたちの物語。キングはありのままを受け入れて生きていくという境地に達してしまっているのかな。抗うものたちの物語もまた読みたいと思うのですが。