役者私感役者私感「染五郎」

市川染五郎---清冽な華がある役者だと思います。とても品があり凛とした姿がいつも印象的です。でも以前は線が細く、また丁寧すぎる楷書の演技は少し面白みに欠けたところもあったように思います。目を引くのだけどどこか物足りない。もったいないなあ、といつも思っていました。ところがいつの頃からか、元々あった華がさらに大きくなっていました。そして演技力の確かさに独特の愛嬌と柔らかさが加わり、表情豊かな役者へと変貌しておりました。どことなく控えめだったように思っていた演技が前に出るようになって、舞台役者に必要な色気がようやく出てきました。そして特に哀切や狂気、恋情といったぎりぎりのところで出る感情のとらえかたは今のところ若手役者のなかでは絶品だと思います。追い詰められれば追い詰められるほどエネルギーを出す役者なのかもしれません。海老蔵さんのようにマグマのようなエネルギーを出す役者ではありませんが、青白い炎のような静かな情熱を持ち、そして未来を感じさせる爽やかな風を纏う独特の個性と水のような深いエネルギーが魅力です。これからますます良い役者になることを期待して応援していきたいです。