下北沢トリウッド『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』

下北沢トリウッドでドキュメンタリー映画『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』を観てきました。 十三代目仁左衛門の84歳から90歳までの姿を追った記録映画です。全6巻のなか今回観たのは第1巻の『若鮎の巻』。自主公演をする上方の門閥外の若手役者グループに仁左衛門さんが演技指導をしている巻です。


一人の人を追うドキュメンタリーには色々と切り口があると思いますが、このドキュメンタリーにはスタッフの十三代目さんへの深い尊敬の念と愛情が溢れています。観ていてとっても楽しかったですし、気持ちが暖かくなりました。熱心に教えている十三代目仁左衛門さんの姿は厳しいなかに優しい人柄が垣間見え、ほのぼのとしてきます。思わず、笑いが出てしまう場面がいくつかあったのですが、ひとえに十三代目さんの人柄ゆえという感じがしました。そして必死に覚えようとしている若手役者の姿には思わず応援したくなりました。


この時、8年目を迎える自主公演は『一條大蔵譚』と『傾城反魂香』。改めて難しい芝居なんだと思いました。(余談:そしてこの演目、ごく最近では吉右衛門さんで観てますが、どちらも吉右衛門さん含めこの時の座組みでの芝居はやはり見事だったわ、と心の底で思ったりもしました。)『一條大蔵譚』の「とっとといなしゃませ」を何度も何度も注意する十三代目さんが印象的。大蔵卿を演じる役者さんがなかなか出来なくて、その都度、観てる私たちまで一緒になって「とっとといなしゃませ」とこっそり台詞を言ってしまいます。きっと私も出来てないんだろうなと思いつつ「あっ、またダメだ〜」と十三代目さんと共にその役者さんにダメ出しをする私たちであった…(^^;)。あと鼻濁音をすごく注意されていました。今確かにこの発音使わなくなってますからねえ。言葉は色々と変わってくる運命にありますが、「歌舞伎」のなかできちんと残していって欲しいなと思ったり。


義太夫狂言の本質がどこにあるか十三代目さんの稽古から垣間見ることもできました。義太夫が芯に入っているのだなと。この頃の役者さんてたぶん、皆さんそうだったんだよなあと。現在も80歳を超えている役者さんたちは門閥外の役者さん含めて皆さん、確実にしっかり入っていると確信できます。今更ながら、ああ、そうだよなと。技術として習得したというだけじゃない所で身に付いてるのはたぶんその年代が最後かも。 とりあえず歌舞伎に興味がある人はぜひ観て欲しい映画でした。

記録映画『歌舞伎役者 片岡仁左衛門
日時:3月8日(土)〜3月28日(金)
会場:短編映画館トリウッド
   世田谷区代沢5-32-5シェルボ下北沢2F
   TEL:03−3414−0433