歌舞伎座『三月大歌舞伎』夜の部

夕方からは歌舞伎座に。21日昼の部に続き今回は『通し狂言 義経千本桜』夜の部です。久しぶりに昼夜通して観た感想ですが、改めて通しで観ると物語が意図するものがよく見えてくるなと思いました。源平の戦いのなか大きなうねりに巻き込まれた人々の別れの物語。そして「時代」のなかの人としての在り方、高潔さといったものが立ち上がってきます。


「木の実」小せんの秀太郎さんが絶品。色気と強さ、そして母としての細やかな優しさがある小せん。権太の仁左衛門さんは愛嬌が勝る権太。いがみの部分が前回(2003年)よりあっさり。全体的に家族愛を強調した演出だったような気がする。
「小金吾討死」小金吾の扇雀さん、前髪姿が似合い若衆の雰囲気がきちんとあった。立ち回りも頑張っていたと思うが決まりが少々弱い。立ち回りに壮絶さ哀れさもあんまり感じられず。今まですっきりした立役がやっていたのしか観てないので(愛之助さん、信二郎さん、染五郎さん)そのイメージが強すぎるのかも。
「すし屋」お里の孝太郎さんが上手くなった。おきゃんな田舎娘風情の可愛らしさと立場をわきまえた切なさとバランスよく。権太の仁左衛門さんはやはり家族の情愛を中心に気持ちを持ってきている。今回、「木の実」で愛嬌が勝ってしまったので戻りの部分のメリハリが少々薄れてしまったのが残念ではあるが「情」の部分の細やかさが上手い。弥左衛門の左團次さん、過不足なくまとめていたし人物造詣もしっかりしていて良い。ただ個人的にかなり情の濃かった坂東吉弥さんのが印象強くて…。
「川連法眼館」佐藤忠信菊五郎さんは文句なく絶品だと思う。武将としての格と鋭さが良い。狐忠信のほうはケレンの部分と狐言葉のメリハリがかなりきつそうだな、と。ただその分狐の親を思う情愛や可愛らしさがとても深く、魅せる。静御前福助さん、可愛らしい。やっぱ静御前に関しては福助さんのが好きかも。源義経梅玉さん、この段の義経梅玉さんじゃなきゃ、という気がしてくるから不思議。似合いすぎ。
「奥庭」能登守教経の幸四郎さん、衣装、拵えともにお似合いで不気味さもあり。夜の部はたったこれだけの為に出演。でもこういうご馳走が芝居を締めるのですね。歌舞伎らしい大団円で通し狂言を観た満足感に浸らせてもらえた。今月も大顔合わせだったんだなあとつくづく思いました。