イルデフォンソ・ファルコネス『海のカテドラル』上下((武田ランダムハウスジャパン文庫)

14世紀、カタルーニャの農村で、農奴と村娘の婚礼の宴が晴れやかに行なわれていた。しかし、領主の来訪によって一変。泣き叫ぶ娘は領主に暴行され処女を奪われてしまった。領主は夫より先に新妻と同衾する権利が認められていたのだ。この衝撃的な冒頭から一代叙事詩の幕はあがった。理不尽に絶望し自由という新天地を求めて力強く歩き出した農奴バルナット。時代の渦に翻弄されながらも尊厳を失わずに生きていく運命は如何に!?(武田ランダムハウスジャパン:http://www.tkd-randomhouse.co.jp/books/details.php?id=903)

横暴な領主から逃げバルセロナへと流れてきたバルナットとアルナウ父子のいわば半生記。母を知らないアルナウが拠り所にするのが海のカテドラルに祭られるマリア像。時代に翻弄され続ける父子。途中からアルナウが主人公となり、彼の真っ直ぐな気性が運命をどんどん変えていきます。

14世紀のカタルーニャ地方を舞台にした歴史小説歴史小説好きは読むべきでしょう。ケン・フォレット『大聖堂』のスペイン版というところでしょうか。小説としての上手さという点では『大聖堂』のほうに軍配があがると思いますが、史実や時代考証をうまく入れ込みつつ読ませるという部分では『海のカテドラル』のほうが上手い。戦争、宗教間の争い、ペストの流行など史実に基づきつつ、その時代の人の営みを描いています。『海のカテドラル』は歴史的価値観そのままに描いている。弱いもの、特に女性の虐げられぶりがひどかったり(しかも性格的な描き方も当時の男性からみた女性像を描いてるような部分があります)、人の争いの残虐さに読んでいて辛かったりもしますが、理不尽な人生をどう生きていくかという波乱万丈な物語は非常に面白いです。私は主人公より、より虐げられた人物のほうにどうしても気持ちを寄せてしまいます。またスペインではまだ地主制度が現存しており、色々と根が深いなあと読みながら思ったり。

海のカテドラル 上 (RHブックス・プラス)

海のカテドラル 上 (RHブックス・プラス)

海のカテドラル 下 (RHブックス・プラス)

海のカテドラル 下 (RHブックス・プラス)